本記事では、三菱電機株式会社のデータサイエンスツールMELSOFT MaiLab(メルソフト マイラボ)の概要と、北菱電興の技術メンバーで使用してみた所感を中心に紹介します。
この記事は、ソフトウェアの機能や使用感を中心に記載した記事になります。
解決できる課題について知りたい方はMELSOFT MaiLab公式サイトに詳しく書かれておりますので、まずはそちらをご覧ください。
なぜ現場でもデータ分析?
近年工場のIoT化が進み、手軽にデータが取得できるようになりました。
日々蓄積される大量のデータを活用するために、分析の重要性が唱えられていますが、実際に自社にデータ分析の専門社員を用意するのは、人材の採用等のコストを考えると、中々すぐには対応できません。
また、その業界の知識(ドメイン知識)が課題解決に必須になりますが、それを専門としないデータ分析者との意思疎通や、反対に現場の方をデータ分析の専門家として教育することも、すぐさま対応は難しくなります。
そこで、現場のことがわかる方が迅速にデータ分析を行えたり、一緒に相談しながら行える環境を整えることが、データ活用による生産性アップや技術継承のために必要になってきます。
概要
MELSOFT MaiLabとは、2022年に三菱電機株式会社から発売されたデータサイエンスツールのことを指します。三菱電機が保有するAI技術Maisart®を使用しており、熟練者の経験や勘に頼っている「材料の混合割合」や「工具の摩耗具合」等の判断をデジタル化していくことが可能です。
技術継承、人材不足の解消、コスト削減、生産性や品質の向上を実現したい場合に活用できるツールになっています。
主要な機能
MELSOFT MaiLabの主要な機能としては、以下のものになります。
分析や学習に用いるデータセットや作成したAI、タスクのまとまりを作成し、管理しやすくします。
CSV/TSV形式のデータを読み込み、マウス操作で様々な視点からデータを可視化することができます。
少ない操作で簡単にAIが作成できます。
作成したAIをシーケンサや他のアプリケーションと連携できる、タスクと呼ばれるものを作成できます。また作成したタスクを簡単に実行でき、判定状況のリアルタイムモニタリングや過去の結果を見返すことが可能です。
各々の機能は全て使わずとも、用途に合わせて利用できます。
用途例 | ①プロジェクト 作成 | ②データセット 作成 | ②AIの作成 | ③タスクの作成 /実行 |
---|---|---|---|---|
手元のデータの傾向を見たい | ||||
今あるデータが自動判定(AI作成)に適しているか知りたい | ||||
判定を自動化したい |
ライセンス体系
MELSOFT MaiLabはソフトウェアがあればすぐさま利用できるというものではなく、ソフトウェアへのライセンス付与が必要になります。ライセンスの種別としては、3種類あります。
- 基本ライセンス(必須/1年更新)
MELSOFT MaiLab上におけるすべての操作を行う際に必要になるライセンスです。
基本ライセンスには、ユーザライセンス1本、診断ライセンス1本が含まれます。- 診断機器とMELSOFT MaiLabが動作するPC(MELSOFT MaiLabサーバ)を同一ネットワークで接続してタスク動作を行なってください。
- 保有ユーザライセンス数は、MELSOFT MaiLabに同時にアクセスできる人数の上限と同等です。
- 追加ユーザライセンス(1年更新)
MELSOFT MaiLabに同時にアクセスできるユーザ数を増やすライセンスです。データ可視化やAI作成等の分析を行うユーザを追加したい場合に必要なライセンスになります。 - 追加診断ライセンス(買切)
タスクの動作に関するライセンスです。1ライセンスで同時に16タスクまで動作させることができます。AIの同時実行可能最大数は、全動作タスクで合計64個です。
MELSOFT MaiLabを利用の際は、基本ライセンスが必須になります。また必要に応じ、追加でユーザライセンスや診断ライセンスを購入することで、分析ユーザ数を柔軟に増減させたり、出荷する装置へAIを組み込んだりすることができます。
価格情報やシステム構成はこちらをご確認ください。
対応データ形式
- データセット作成に対応するデータ形式
-
MELSOFT MaiLabでデータセット作成を行う際のデータ形式としては、CSVもしくはTSV形式に対応しています。
- タスク作成時に接続可能な方式
-
タスク作成/実行時(AIへの入出力)に選択可能な接続方式は以下です。
- CSV(フォルダ監視)
- PLC
- OPC UA
- データベース
用意されている前処理・分析
MELSOFT MaiLabでは、三菱電機はこれまで培ってきた経験を活かし、製造業に適した手法を取り入れた様々な手法を提供しています。
- 基本的なデータ加工
値処理、演算、変換、生成、エンコーディング、FFT、フィルター 等 - 教師あり学習
重回帰分析、k近傍法、ランダムフォレスト、勾配ブースティング決定木、ディープラーニング
それぞれの判断から総合的に判定するアンサンブル学習機能もあります。 - 教師なし学習
MT法、オートエンコーダ、ガードバンド、類似波形認識※- 類似波形認識は、リアルタイムデータアナライザでも採用されていた三菱電機独自のAI技術のことです。
MELSOFT MaiLabを使ってみて
操作性
基本的にはクリックやドラッグ&ドロップといったマウス操作が中心なので、複雑な操作はありません。データの読み込みや構成、AI作成やタスク作成および動作も直感的にできます。三菱電機が公開している「データ分析の教科書」を一通り行えば、操作はマスターできると思います。
プロジェクトの分け方
基本的にプロジェクトの構成は、データセット、モデル、タスクの3つになります。
同一プロジェクト内に各種複数個作成できますが、データセットは1プロジェクトに取り込める制限※があったり、管理をする上での手間を考えると、学習データ種別(波形データかカテゴリデータか等)やPoCのフェーズでプロジェクトを分割する方が良いのではないか、と思います。
MELSOFT MaiLabを実際に触ってみて、自分の管理しやすいプロジェクト管理を模索していただければ幸いです。
- 1プロジェクト内のデータセットの最大作成可能数は128セット、作成可能サイズは合計2GBとなっています。
どんな可視化ができるのか
データのプレビュー機能を使うことで、MELSOFT MaiLabの方で選択した項目に対し、グラフ化や波形形式、相関を見るといった可視化ができます。
例えば下図は、コンクリートの圧縮強度を決める要素として、セメント、減水剤、日数が特に関係することが「相関行列ヒートマップ」を選択することでわかる例になります。
相関行列の一番右の列が圧縮強度と他要素の相関で、ピンクが濃い要素ほど相関が高いことを示しています。
相関図以外にも、以下のようなプレビューが用意されていますので、データに合わせて選択していただければと思います。
外部連携
PC上のフォルダ内にあるCSVを監視したり、三菱電機のシーケンサと直接データのやり取りが行える機能が用意されていることは便利だと思います。他社製のPLC等もOPC UAやデータベース経由でデータを収集できるので、多様な入力に対応していると感じます。
精度
弊社の方で、kaggleで公開されているオープンデータをMELSOFT MaiLabでAIを作成させてみた結果、データサイエンティストが分析する場合と同等の精度でAIの作成が行えました。
セキュリティ
基本的にローカルPCをサーバとするソフトウェアのため、外部にデータが漏洩することは無いと思います。作成したモデルやタスクは、MELSOFT MaiLabソフトウェア上でのみ確認できます。
どんな診断をしているの?
前処理や判断の流れは、AIの作成時にブロック図で確認できます。
ブロック図作成方法は2パターンあり、
- 自動作成
いくつかの条件を選択するだけで、図のようにブロックが自動配置されます。自動配置されたブロックは後から編集可能で、ブロックや経路の増減ができます。 - 手動作成
こちらはMELSOFT MaiLabに慣れた方やデータサイエンスの知識がある方向けになりますが、ブロック図を1から作成することも可能です。
前処理ブロックでは、主に自動計算された設定値を確認することができます(データプレビューも確認することができます)。また分析手法ブロックは中身の処理や判断は見えない作りになっています。
また作成したモデルは、AIの精度の良さを数値(100点満点)とコメントで確認できます。またどの変数がAIの判定結果の重要要素になっているかを寄与度として確認することができます。
ブロックの構成変更やPythonによるコーディングは、熟練者やデータサイエンティスト向けなので初心者はとっつきにくいと感じると思いますが、それらを使わずとも、MELSOFT MaiLabの自動生成機能のみの利用で精度の良いモデルが作成できると思います。
動作PCのスペック
詳細なスペックはこちらよりご確認いただけます。
評価時のPC(第8世代のIntel-Core-i5-8265U)だと、学習時に「学習サーバのCPU使用率が70%に達しています」という注意を促すポップアップが出現するので、直近世代のCore-i5以上のCPUををおすすめ※します。
MELSOFT MaiLabはCPUにてAIの学習を行うので、GPUの搭載は現時点では不要です。
- MELSOFT MaiLabのバージョンアップ次第で、要求されるスペックが上がる可能性があります。
- ショールームに設置しているMELSOFT MaiLabデモ機のPCはCore-i7-12700ですが、こちらはサクサク動いています。
その他
学習やサポート
たっぷり90日間の体験版
MELSOFT MaiLabを学ぶ負荷としては、取扱説明書やチュートリアルが充実しており、ユーザーインターフェースも直感的で分かり易いので、何回かお使いいただくことで、比較的簡単にソフトを使いこなせるようになります。
またMELSOFT MaiLabには90日間の体験版があるため、チュートリアルの実施や自社環境での試用がじっくり行えます。
自社にすぐ試せるデータが無いけれど…
三菱電機のサイトで、サンプルデータと「データ分析の教科書」を準備しているので、手元にデータの準備が無い場合でもすぐにチュートリアルが始められます!
先にデータ分析やAI作成に必要になるデータ構造をチュートリアルで知ることで、実際にデータを取得・分析する際に構造を意識しながら行えるメリットもあります。
技術サポート
データの意味を理解する負荷としては、データサイエンスの知識が必要なので高コストに見えますが、三菱電機や弊社のサービスを利用することで理解度がより高まります。
MELSOFT MaiLabの使い方や、実際のお客様のデータを使ってMELSOFT MaiLabで自動判定が実現できるか、といったご相談は北菱電興におまかせください。より専門性が必要であれば、三菱の各種サービスがありますので、お申し付けください。
データ分析支援サービス(有償)
三菱電機のデータサイエンティストが、代わりにデータ分析を行い、レポート化してくれるサービスです。
データ分析トレーニング(有償)
三菱電機の担当者にて、データ分析の基本的な考え方や手法などの必要な知識をトレーニングするサービスです。
MELSOFT MaiLabの諸相談
北菱電興(弊社)にて以下のようなご相談を随時受け付けております。
- データ取得環境を整えてほしい。
- 簡単にデータが取れるセンサーを教えてほしい。
- MELSOFT MaiLabの使い方を知りたい。
- MELSOFT MaiLabのデモ機を使わせてほしい。
- 今あるデータがMELSOFT MaiLabで使えるか見てほしい。 他
ご相談は貴社担当営業、もしくは以下のリンクよりお気軽にご相談ください。
まとめ
今回は三菱電機のデータサイエンスツールMELSOFT MaiLabについて、ソフトの概要や使用感を簡単にまとめました。
記事の内容や、デモ、導入等、MELSOFT MaiLabに関するご相談事がありましたら、北菱電興までお気軽にお問合せ下さい。